勤めていた会社を退職すると収入が途絶えてしまうため、十分な蓄えのある人以外は求職中にたちまち生活に困窮してしまう可能性があります。
このような事態を防ぐため、国は失業保険(正しくは失業給付金)制度を用意し、無職時の生活の安定、スムーズな転職活動をサポートしてくれます。
しかしこの失業保険は、自己都合で会社を退職した場合と会社都合で会社を退職した場合とでは、給付にあたって様々な違いがあるのです。
ということで今回は、失業保険における自己都合退職と会社都合退職の違いについて紹介しましょう。
「自己都合退職」とは?「会社都合退職」とは?
失業保険における「自己都合退職」「会社都合退職」とは何なのでしょうか?まず最初に、自己都合退職と会社都合退職の違いについて整理しておきましょう。
自己都合退職とは?
自己都合退職とは、労働者自身が「自分自身の都合で」会社を退職する場合を指します。
例えば「キャリアアップのために転職をしたいから退職する」「もっと給料の高い会社へ転職をしたいから退職する」「結婚や出産、親の介護をしたいから退職する」「ちょっとひと休みしたいから退職する」といったケースは、すべて自己都合退職に該当します。
会社都合退職とは?
一方の会社都合退職とは、労働者の意思に関わらず会社側の一方的な都合で雇用契約が終了する場合 = 会社を退職せざるを得ない場合を指します。
会社都合退職の具体的な例は、以下のようなものがあります。
Ⅰ.倒産等により離職した者
- ①会社の倒産(破産・民事再生・会社更生などの倒産手続きの申立てや手形の停止)による離職
- ②大量リストラによる離職
- ③会社の廃止・事業停止・解散による離職
- ④事業所の移転に伴う通勤困難による離職
Ⅱ.解雇等により離職した者
- 会社による解雇(「自己の責めに帰すべき重大な理由」による解雇は除く)による離職
- 労働契約の締結時に明示された労働条件が事実と著しく異なっていたことによる離職
- 2ヵ月以上3分の1以上、または離職の直前6ヵ月の間のうち3月の賃金(退職手当を除く)の不払いがあったことによる離職
- 労働者の予見できない事由で15%以上賃金がカットされたことによる離職
- 離職の直前6ヵ月のうち3月連続して45時間、1月で100時間または2~6月平均で月80時間を超える残業があったため、行政機関から危険を指摘されたにも関わらず、会社が必要な措置を講じなかったことによる離職
- 会社が職種転換・配置転換の際に必要な配慮をしてくれなかったことによる離職
- 期間の定めのある労働契約が更新され、雇用時点から継続して3年以上雇用されている場合、かつ契約更新を希望していたにも関わらず、契約更新がされなかったことによる離職
- 期間の定めのある労働契約の締結に際し、契約更新が明示された場合において、契約更新されなかった(1つ前の項目に該当する場合を除く)ことによる離職
- いわゆる「ハラスメント」があったことによる離職
- 会社から直接・間接に退職を迫られた(早期退職優遇制度に応募した場合は該当しない)ことによる離職
- 会社のせいでの休業が3ヵ月以上になったことによる離職
- 会社の業務が法令に違反したことによる離職
失業保険における自己都合退職と会社都合退職の違い
一般的に「失業保険」や「失業手当」と呼ばれるものは、正式には「失業給付金」といいます。
失業給付金とは、何らかの理由で会社を退職し、次の就職先が決まっていない状態 = 失業している状態にある時、生活の心配をせずに転職や再就職をするために一定の期間国から支給される手当のことです。
失業給付金は「雇用保険被保険者として、離職日から遡って2年の間に最低12か月以上働いていた期間があること」「ハローワークに求職の申し込みを行い、再就職(労働)の意思があり、能力もあるのに就職できない状態であること」という2つの条件を満たせば、自己都合退職でも会社都合退職でも支給されます。
しかし自己都合退職と会社都合退職とでは、失業給付金の支給の際に主に「給付開始日」と「給付日数」において違いがあります。
ここからは失業保険における自己都合退職と会社都合退職の違いについて説明します。
給付開始日が違う
まず、自己都合退職と会社都合退職とでは、失業給付金の支給が始まる「給付開始日」が異なります。
自己都合退職、会社都合退職のいずれも、ハローワークに必要書類を提出してから7日間の「待機期間」がありますが、自己都合退職の場合はその後「原則として2か月の『給付制限期間』を経た後」に失業給付金が給付されます。
会社都合退職の場合、失業給付金の支給は「7日間の待機期間を経てすぐ」です。
会社都合退職は会社の都合で失業させられてしまったため、より迅速に救済をしてあげる必要がある、という理由で給付制限期間がありません。
給付日数が違う
自己都合退職と会社都合退職とでは、失業給付金が支給される期間、すなわち「給付日数」も異なります。
自己都合退職の場合は、90~150日支給され、会社都合退職の場合は、90~330日支給されます。会社都合退職の方が、より長い期間失業給付金が給付される余地がある、ということですね。
なお自己都合退職、会社都合退職いずれの場合も、給付日数は「年齢」と「被保険者であった期間」によって以下のように変わります。
退職理由 | 年齢 | 被保険者であった期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 | 5年以上 | 10年以上 | 20年以上 | ||
5年未満 | 10年未満 | 20年未満 | ||||
会社都合退職 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳未満 | ||||||
35歳以上 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳未満 | ||||||
45歳以上 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳未満 | ||||||
60歳以上 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
65歳未満 | ||||||
自己都合退職(原則) | 65歳未満 | - | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
給付金額は「1日あたりいくら」という形で計算されますが、この金額の計算式自体は自己都合退職も会社都合退職も変わりません。
ただし給付日数が異なるので、最終的に受け取れる金額が変わってきます。
失業給付金以外での自己都合退職と会社都合退職の違い
自己都合退職と会社都合退職とでは、失業給付金以外の場面でも違いがあります。
これらは退職・転職の場面で少なからず影響を与えるので、ここで紹介しておきます。
退職金の金額が違う
一般的に、退職金はその会社での勤続年数によって変わります。
しかし「退職時にまとまった金額を全額支給する退職金」の場合、退職理由によっても退職金の金額が変わります。通常自己都合退職は、会社都合退職に比べると退職金が低くなっています。
「企業年金基金や確定拠出年金といった制度を利用した退職金」の場合、原則退職理由による退職金の減額はありません。
いずれの場合も、就業規則を確認するようにしましょう。
履歴書に書く経歴が違う
転職活動時には履歴書を書くことになりますが、自己都合退職の場合は「一身上の都合により退職」と書く必要があります。
会社都合退職の場合は「会社都合により退職」と書きます。
転職の際の面接担当者は、会社都合退職の場合は「その理由」を知りたがります。「懲戒解雇による退職」と、「リストラによる退職」「ハラスメントによる退職」では意味がまったく変わってくるからです。
また、会社都合退職の場合は「『仕方なくうちの会社で働こう』と考えているのでは」と疑われることもあります。
そのため、会社都合退職による転職活動をする場合は「退職に至った経緯」と「その会社で働きたいと思う意欲」をきちんと説明できるようにしておくとよいでしょう。
自己都合退職と会社都合退職を変更することはできるか
前章で紹介したように、失業保険の給付においては自己都合退職よりも会社都合退職の方が何かと有利です。
そのため「自己都合退職を会社都合退職に変更したい」と思う人もいると思います。
また逆に、会社の方から「会社都合退職にすると色々マズいので、自己都合退職にして欲しい」といわれることもあるでしょう。
そこでここからは、自己都合退職と会社都合退職を、それぞれ変更することができるかどうかについて紹介します。
自己都合退職から会社都合退職への変更
自己都合退職から会社都合退職への変更は、ハローワークが必要だと認めればできる場合があります。
正確には「特定受給資格者の認定」「特定理由退職者の認定」を受けることができれば、実質的に会社都合退職と同様の扱いになり、失業保険がすぐに給付されます。
例を挙げると「賃金の不払い」「長時間労働」「ハラスメント」などによって退職に追い込まれた場合は特定受給資格者に、「親の死亡による家庭状況の急変」「結婚や職場の移転で往復の通勤時間が4時間以上になった」などによって退職せざるを得なくなった場合は特定理由退職者に認定されたりすることがあります。
特定受給資格者・特定理由退職者共に、ハローワークが要件を定めているので、詳細はハローワークの職員に相談するか、ハローワークのHPなどで確認するようにしてください。
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本当は会社都合退職にも関わらず自己都合退職に変更して欲しいといわれたら
会社は国から様々な助成金・給付金を受け取っていることがあります。
そしてその助成金・給付金の受給には「退職者に占める会社都合退職の割合」が影響することもあるため、会社都合退職による退職者はなるべく出したくない、と考える会社も少なくありません。
会社都合退職にも関わらず、退職時に「あなたの経歴に傷がつくから自己都合退職にした方がよい」などといわれて退職届を書くように迫られたら、毅然とした態度で断るようにしましょう。
退職届は「自己都合退職の証明書」になってしまうことを忘れないでください。
また「失業給付金の支給で不利になる分を補償するから」などといわれる場合もありますが、このような口約束は反故にされることが多いので、これも断りましょう。
失業保険給付の流れ
最後に、失業保険の給付を受けるまでの流れを紹介しておきます。失業保険を受給するためには必要な書類がいくつかありますので確認してくださいね。
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1必要書類を準備する
失業保険の申請は、住民票を置いている居住地を管轄するハローワークで行います。
申請に必要な書類は以下の通りです。手続きに行く前に手元に用意しておくようにしましょう。
- 雇用保険被保険者離職票(1,2)
- マイナンバーカード
- 顔写真入りの身分証明書
- 印鑑
- 証明写真2枚(3cm × 2.5cm)
- 本人名義の銀行のキャッシュカード・通帳など失業給付金振込口座がわかるもの
このうち耳なじみがないのが「雇用保険被保険者離職票」だと思いますが、これは勤務先の会社から退職時に手渡しされるか、後日郵送されてくるはずです。
退職日に手渡しされない場合、後日郵送してもらえるのかどうかを確認しておきましょう。
待っていても郵送されない場合、元勤務先の会社に催促してください。それでも郵送されない場合、ハローワークに相談してハローワークから元勤務先の会社へ提出を促してもらいましょう。
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2ハローワークで失業保険の受給申請を行う
必要な書類が整ったら、ハローワークへ出向きます。
必ず「総合受付」のようなカウンターがあるので、「会社を退職したので失業保険の手続きにきました」と告げると、手続きのカウンターへ案内され、失業保険の受給要件の確認などが行われます。
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3説明会に参加する
受給要件を満たし「失業保険の受給が可能」となれば、後日行われる受給者向けの説明会に出る必要があります。
この説明会では「失業給付金受給者のしおり」が渡され、失業給付金の受給について必要事項の説明が行われます。大事な内容なので、聞き洩らさないようにしてください。
説明会が終わると、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を渡され、「初回の失業認定日」が決定されます。
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4失業保険を受け取る
「失業認定日」とは、簡単にいえば「ハローワークに転職活動の状況を説明する日」です。この日にハローワークへ行き、転職活動の詳細を記した「失業認定申告書」を雇用保険受給資格者証と共に提出します。
問題がなければ「失業認定」が行われ、この日から通常5営業日後に指定した銀行口座に失業給付金が振り込まれます。
失業保険を受け取るのは正当な権利!もらえるものはしっかりもらおう
以上、失業保険における自己都合退職と会社都合退職の違いについて紹介しました。
退職が自己都合になるか会社都合になるかは、基本的には自然に決まるものです。自らの意思で会社を辞めたのなら自己都合になりますし、それ以外なら会社都合になるはずだからです。
しかし自分では仕事を続けたかったのに辞めざるを得なかった、といった場合には話が変わってきます。このような場合は「実質的に会社都合」となる可能性があるため、遠慮せずにハローワークに相談するようにしましょう。
失業保険を受け取るのは、雇用保険の被保険者だった人の正当な権利。受け取れるものはしっかりと受け取った上で、納得のいくまで転職活動を行い、心機一転新しい職場で出直しましょう。