2023年1月に総務省統計局が発表した日本の「労働力調査」(基本集計・2022年4月)によると、働く人の約9割が人に雇われて働いており、その多くが会社員です。
こうした中、会社で働く上では「残業代が支払われない」「有給休暇が取れない」「退職したいのに辞めさせてもらえない」など、会社に対する様々な悩みや不満が生じることがあります。
これらの労働問題が起きた場合、私たちにとって頼りになるのが「労働基準監督署」。労働基準監督署は「労働Gメン」として事業者の不正行為に目を光らせており、必要があれば逮捕や送検もできる強い権限が与えられています。
そんな労働基準監督署ですが、その存在は知っていてもどんな役割を担っているのか、何が相談できるのか、などを把握している人は意外に少ないのではないでしょうか。
そこでこのページでは、労働基準監督署の活用方法や相談すべき内容、相談後の流れや活用のメリット・デメリットなどについて解説します。
「労働基準監督署がどんな役所なのか知りたい」「労働基準監督署に相談したいけど自分が行ってもいいのかわからない」という人は、ぜひ参考にしてみてください。
労働基準監督署とは?
まず最初に、そもそも労働基準監督署とはどのような役割を担う役所なのかを紹介していきましょう。
労働基準監督署は「労働問題の警察」
労働基準監督署とは、事業者(企業)が労働基準法を始めとする労働関連の法律や規則(以下「労働基準関連法令」)を遵守し、違反していていないかどうかを監督すると共に、労働者(社員やパート・アルバイト)の権利を保護するために設置されている役所です。
「労働基準監督官」は特別司法警察職員
なお労働基準監督署の職員の主力を担う労働基準監督官は、通常の国家公務員採用試験とは別に設けられた「労働基準監督官採用試験」を経て採用された専門職であり、採用された時点で特別司法警察職員としての身分が与えられます。
労働基準監督官は労働基準関係法令違反事件について犯罪の捜査、被疑者の逮捕、送検といった司法警察員としての権限の他、行政調査や行政処分の権限も有しています。これが労働基準監督官および労働基準監督署が「労働Gメン」「労働問題の警察」と呼ばれる理由です。
事業者から見れば常に法令違反に目を光らせる、ある意味では「怖い存在」であり、労働者から見れば事業者の不当な行為から労働者を守ってくれる「頼れる味方」ということになります。
労働基準監督署には何を相談(通報)できる?
私たちは日常生活をしていて困ったことがあったり、犯罪を目撃したり、巻き込まれてしまった場合には警察署に相談・通報をします。
これと同じように、勤めている会社・職場での労働問題に関して困ったことやトラブルに巻き込まれた場合、労働基準監督署に相談・通報をすることができます。
そこでここでは、労働者がどんなことを労働基準監督署に相談・通報できるのかを紹介していきましょう。
労働基準監督署に相談(通報)できること
労働基準監督署が対応できるのは、端的に表現すれば「労働基準関係法令に関する問題」です。
そしてこの労働基準関係法令には、具体的に以下のようなものがあります。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- じん肺法
- 家内労働法
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
- 作業環境測定法
- 最低賃金法
- 賃金の支払の確保等に関する法律(賃金支払確保法・賃確法)
これらの法律は労働者を事業主による不当な行為から守るためのものです。
事業者の行為がこれらの法律に違反する疑いがある場合、労働者は労働基準監督署に行って相談・通報を行うことができます。
以下に、もう少し具体的にいくつかの典型的なケースを紹介しましょう。
賃金や残業代が支払われない
労働基準法24条では「賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と定められています。
また同法32条では「使用者は労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない」と定められている他、同法37条1項で「労働時間を延長し、または休日に労働させた場合においては、2割5分以上の割増賃金を支払わなければならいない」「法定時間外労働が60時間を超過した場合は5割以上の割増賃金を支払わなければならない」とも定められています。
つまり法律では、賃金はもちろんのこと、労働時間や残業代についても細かく定められているのです。
そのため労働者は
- 先月分の給料が支払われなかった
- 残業したのに固定給しか支払われていない
- 「今月の売り上げが厳しいから」などといわれて給料が現物支給になった
- 「給料は紹介者の〇〇さんに渡したよ」などといわれて自身に直接支払われなかった
・・・といった事が起きた場合、労働基準監督署に相談・通報をすることができます。
36(サブロク)協定がないにも関わらず長時間労働をさせられている
前述のように、労働基準法では使用者は労働者を週40時間を超えて労働させてはいけないことになっています。
しかし使用者との間で残業をさせる業務の種類や1日あたりの上限時間などについて「時間外・休日労働に関する協定」を結び、その内容を所轄の労働基準監督署長に届け出ている場合、使用者は上記法定労働時間を超える労働を労働者に行わせることができます。
これを36協定と呼ぶのは、これらが労働基準法36条に定められているからです。
逆にいえば、36協定が結ばれていないにも関わらず法定労働時間を超える労働をさせられている場合、使用者は労働基準法に違反していることになります。
そのため使用者は労働基準監督署に相談・通報することができます。
仕事中に休憩を取らせてもらえない
仕事中の休憩については、労働基準法34条で「労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分」「8時間を超える場合は少なくとも1時間」与えなくてはいけない、と定められています。
なお休憩とは完全に業務から解放されている必要があります。例えば「電話番をしながら休憩を取った」というのは休憩に入りません。
もし法律通りに休憩を取らせてもらっていない場合、労働者は労働基準監督署に相談・通報することができます。
有給休暇を取らせてもらえない
有給休暇については、労働基準法39条に定めがあります。
有給休暇は業種や業態はもちろん、正社員・パート・アルバイトなどの労働形態には関係なく、使用者はすべての労働者に対して与える必要があります。
有給休暇の日数は勤続年数や週や年の労働日数などによって細かく変わるので、一概にはいえません。原則として雇入れの日から6ヶ月継続して勤務した上で、全労働日の8割以上出勤すれば、正社員なら入社半年後に10日の有給休暇が付与されます。
そして有給休暇を取得する日は労働者が指定でき、使用者は原則として指定された日に有給休暇を与えなくてはなりません。ただし使用者は「事業の正常な運営が妨げられる場合」に限り、有給休暇日を別の日に変更する権利があります(時季変更権)。
なお労働者は、有給休暇を取得する理由を明かす必要はありません。
また年10日以上の有給休暇がある労働者に対して、使用者はそのうち年5日限って「この日に有給を取ってください」と時季を指定して取得させなければなりません(労働者の意見を聴取し意見を尊重する必要がある)。
これは一見会社の横暴に見えますが、労働者が職場への配慮やためらいで有給休暇を取得しないケースがあるため、これを防ぐためにあえて作られた制度です。そのため既に5日以上有給休暇を取得済みの労働者にはこの時季指定は必要ありません。
これら法律に定められた通りに有給休暇が取得できない場合、労働者は労働基準監督署に相談・通報することができます。
会社を辞めたいのに辞めさせてもらえない
会社を辞めたいのに辞めさせてもらえないケースというのはたまにあると思いますが、これは労働基準法ではなく民法の問題です。
民法627条には「当事者間で雇用の期間を定めなかった時、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる」「雇用は解約の申入れ日から2週間を経過することで終了する」と定められています。
つまり雇用期間の定めのない正社員の場合、いつでも退職の申入れをすることができ、会社がそれを許そうが許すまいが、申入れから2週間が経過した時点で雇用契約は終了するのです。
ただし使用者が労働者を解雇するにあたっては、別途労働基準法16条の規定により解雇が制限されます(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は権利の濫用で無効)。
また契約社員やパート・アルバイトのような期間の定めのある雇用の場合は民法628条が適用されます。
民法628条では「当事者が雇用の期間を定めた場合でも、やむを得ない事由があれば各当事者は直ちに契約の解除をすることができる」「この場合その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」と定められています。
これを読んでわかるように、期間の定めのある労働者の退職は、正社員の退職ほど自由ではありません。ただしやむを得ない事由がある場合には、正社員同様に会社が許そうが許すまいが、辞めることができます。
退職に関する問題は民法の問題であり、労働基準監督署が扱う労働基準関係法令の問題ではありませんが、労働基準監督署でも相談にのってもらえます。
労働災害に遭ったのに労災保険の受給に対応してくれない
使用者はひとりでも労働者を雇ったら(農林水産事業の一部を除き)労働保険に加入する義務があります。
労働保険は労災保険と雇用保険で構成され、このうち労災保険は労働者が業務上の事由または通勤によって怪我を負ったり、病気になったり、死亡した場合に、被災した労働者本人や遺族を保護するためのものです。正社員はもちろんパートやアルバイトも含めてすべて加入する必要があります。
そして労働災害に遭遇した場合、労災保険の請求は会社を通じて行うことになります。
しかし会社が労働災害を隠蔽したいばかりに、労災保険の請求に協力してくれないことがあったりします。
このような場合も、労働者は労働基準監督署に相談・通報することができます。
労働基準監督署には対応できないこともある
労働基準監督署は労働者にとって強い味方になってくれる反面、原則として労働基準関連法令に関することしか対応できません。
つまり労働問題すべてに対して労働基準監督署が対応できるわけではなく、できることは限られているのです。
そのため労働基準監督署に行って相談しても「それは労基署では対応できませんので他所で相談してください」といわれることがあります。
労働基準監督署が対応できない典型的な労働問題には、以下のようなものがあります。
- セクハラ・パワハラ・マタハラのようなハラスメント問題
- 正当な理由に基づく解雇
- 配置転換
- 懲戒処分
これらについて労働基準監督署で対応はしてくれませんが、行政(厚生労働省)として、これらの相談を受け付ける窓口は別途用意されています。
労働基準監督署が対応できない労働問題は雇用環境・均等部が対応
セクハラやパワハラ、マタハラは許されないことで、これらを抑止するための法整備も進んでいます。
しかしセクハラは男女雇用機会均等法、パワハラは労働施策総合推進法、といった具合で、これらは労働基準監督署が管轄する労働基準関係法令ではありません。
そのため労働基準監督署では対応できません。
ただし厚生労働省の各地方労働局には「雇用環境・均等部(場所によっては雇用環境・均等室)」が設置されており、労働基準関連法令以外の法令に関わる相談はここで受け付けています。
雇用環境・均等部では必要に応じて労働局長による助言や指導、労働局に設置されている紛争調整委員会による斡旋制度の案内をしてくれる他、それぞれの内容に労働基準関係法令に違反する疑いがある場合は、当然労働基準監督署への取り次ぎもしてくれます。
また労働基準監督署も含めた厚生労働省内での対応ができない場合は、弁護士への相談を助言されることもあるようです。
つまり労働基準監督署はすべての労働問題に対応できるわけではないものの、厚生労働省の各地方労働局ではしかるべき部署でそれぞれの相談にのってもらうことは可能です。
どこに相談すればよいかわからない場合は、まずは地方労働局に設置されている総合労働相談コーナーを調べてください。多くの場合各労働基準監督署内に設置されており、地方労働局の公式サイトには所在地の電話番号が記載されていますので、まずは電話で相談してみるのがよいでしょう。
労働基準監督署に相談(通報)するときの流れ
次に、労働者が労働問題を労働基準監督署に相談(通報)するときの流れについて紹介します。
法令違反の証拠・記録を集める
まず絶対的に必要なのは、労働基準監督署に相談(通報)したい件について事業者の法令違反行為の証拠や記録をきちんと集めることです。
例えば支払われるべき残業代が支払われていない場合であれば、就職時に交わした労働契約書のコピー・出勤時間や退勤時間を記録したタイムカードのコピー・給与明細書・給与が振り込まれた銀行口座の記録・労使間で締結された36協定の内容を示した書類のコピーや掲出されている書類の画像などが挙げられます。
これらの証拠や記録は多ければ多いほど良いので、以前支払われていたけど急に支払われなくなった、という場合は、支払われていた月と支払われなかった月両方のものを用意しましょう。
このステップは労働基準監督署に相談(通報)する上で最も重要です。資料はクリップやクリアケースなどを活用してわかりやすく分類し、使用者の行為の「何」が「どう」法令に違反しているのか、そしてその「根拠」は・・・ということを順序立ててわかりやすく説明できるように準備しておきましょう。
労働基準監督署に電話もしくは直接相談(通報)・申告
相談(通報)すべきことについて証拠や記録を揃え、内容を整理したらいよいよ労働基準監督署に相談(通報)・申告します。
相談(通報)・申告は会社(勤務先)を管轄している労働基準監督署です。これは厚生労働省の各地方労働局の公式サイトで確認できます。自身の住所地を管轄している労働基準監督署ではない点に注意してください。
管轄の労働基準監督署がわかったら、電話をするか、直接出向きましょう。
相談レベルであれば電話でも構いませんが、事業者に明確な法令違反がある、労働基準監督署には法律に基づいて毅然とした対応をして欲しい場合などは、必ず直接出向いて窓口で正式に労働基準法104条に基づいた「申告」という手続きを取ってください。
もちろん相談レベルで直接労働基準監督署に出向いても、まったく問題はありません。労働基準監督署に相談したらすぐ大事になってしまうのでは・・・といった心配は無用です。
労働基準監督署は申告に基づき調査を実施
労働基準監督署は、労働者からの申告を受けると原則として調査を行います。
労働基準監督署は法律的には申告を必ずしも調査する義務はありません。しかし申告内容がきちんと整っており、使用者に法令違反の疑いがあればほぼ間違いなく調査に動きます。
調査は電話や直接訪問で話を聞くだけのケースも多いですが、事業者側が非協力的な場合や違反内容が悪質な場合は労働基準法101条に基づく「臨検」という立ち入り調査が行われます。
そして調査の結果、事業者に法令違反があれば「是正勧告書」が交付されます。
是正勧告に強制力はありませんし、従わない場合の罰則もありません。しかし事業者はこの段階でしっかり対応をしないと最悪逮捕、送検、刑事事件として起訴・・・といったように状況がどんどん悪化していくので、よほど事実関係で争いのあるケース以外は、従うことが多いです。
つまり、例えば残業代の未払いであれば、この段階で残業代が振り込まれることになります。
なお事業者によっては、労働基準監督官が動くと、残業代未払いのケースであれば、慌てて残業代を振り込んでくる、など慌てて動きを見せることがあります。
労働基準監督署に相談(通報)すると会社にバレる?
続いて、多くの人が気になっている「労働基準監督署に相談(通報)すると会社にバレるのか?」という点について解説します。
労働基準監督官には守秘義務がある
まず大前提として、労働基準監督署で調査を行う労働基準監督官は、労働基準法105条によって守秘義務が課されています。
つまり労働基準監督官は職務上知り得た秘密を漏らすことはなく、相談した労働者の名前が労働基準監督官経由で使用者にバレる、ということはありません。
相談内容や証拠からバレる場合も
ただし会社の規模が小さく労働者の数が少ない場合や、相談内容、調査内容、労働者が労働基準監督署に提出した書類の内容などから、相談(通報)者が使用者に特定されてしまう、という可能性はあります。
労働基準監督官も、相談(通報)者が特定されてしまうような調査方法はなるべく取らないと思いますが、やむを得ない場合もあるでしょう。
もしも絶対にバレたくない場合は、相談(通報)内容や提出する証拠にも気を配る必要があります。
匿名でも相談(通報)は可能
労働基準監督署への相談(通報)が絶対に会社にバレたくない場合は、各地方労働局の公式サイトのメールフォームから連絡するのがおすすめです。
ただしメールフォームからの情報は労働基準監督署にとっては「参考情報」程度に過ぎないため、対応してもらえるとは限りません。
電話や直接訪問でも匿名で相談(通報)することは可能ですが、匿名の場合は素性を明かしての相談(通報)に比べると労働基準監督署側の対応がそれなりになってしまう場合があります。
そして正式な「申告」は文書で行いますが、この文書には氏名・住所を記入するため匿名ではできません。つまり匿名希望なら相談(通報)止まり、ということです。
労働基準監督署を使うメリットとデメリット
最後に、労働問題を労働基準監督署に相談するメリット・デメリットを紹介しましょう。
労働基準監督署を使うメリット
労働基準監督署を使うメリットは以下の2つです。
- 事業者に注意・指導・是正勧告をしてもらえる
- 労働問題の専門家に無料で相談できる
事業者に注意・指導・是正勧告をしてもらえる
労働問題で労働基準監督署を使う最大のメリットは、何といっても法令違反をする事業者に対して注意や指導、是正勧告を行ってくれるという点です。
労働基準監督署は労働者からの相談を受け、調査を行った結果、事業者に法令違反の行為があればその点を指摘し、改めるように注意や指導をします。
事業者が労働基準監督署の注意や指導に従わない場合、その先に待っているものは最悪逮捕や送検です。そのため多くの事業者は労働基準監督署の注意・指導には従います。
つまり例えば労働者に給与や残業代の未払いといった問題が発生している場合、労働基準監督署に相談して事業者に注意・指導・是正勧告をしてもらうというのは、問題解決のための最強手段、ということがいえます。
労働問題の専門家に無料で相談できる
労働者が労働問題で困った時、相談する先として考えられるのは弁護士・社会保険労務士、そして労働基準監督署などが考えられます。
このうち弁護士・社会保険労務士などの国家資格有資格者への相談は原則有料です。どちらも相談料は30分5,000円ほどが相場となり、1時間相談すれば1万円もかかってしまいます。
しかし労働基準監督署への相談は、何分かかっても無料です。
これは労働基準監督署が厚生労働省の出先機関、つまり公的機関のためです。
労働基準監督署は労働者が適切な労働条件・労働環境の下で働けるように事業者を監視する機関です。そのため労働者や使用者が労働問題で困ったことがあれば、無料で相談にのってもらえるのです。
そして労働基準監督署に務める国家公務員は、労働基準監督官を始めほぼすべてが労働問題の専門家です。
この「労働問題の専門家に無料で相談できる」というのも、労働基準監督署を使う上ではメリットといえるでしょう。
労働基準監督署を使うデメリット
労働基準監督署を使うデメリットは以下の5つです。
- 証拠がないと対応してもらえないことが多い
- 必ずしも自分の味方になってくれるわけではない
- 使用者に対して命令はしてくれない
- 労使間の仲介役はしてくれない
- 民事問題には不介入
労働基準監督署のデメリットは、警察署と似たようなイメージで見ておくとわかりやすいかもしれません。
証拠がないと対応してもらえないことが多い
労働基準監督署は、申告された労働問題に対してそれを裏付ける証拠がないと中々動いてくれません。
証拠は具体的かつ客観的なものが、あればあるほどよいです。証拠が弱い場合、動いてくれないことはないですが、その動きは鈍いことが多いようです。
必ずしも自分の味方になってくれるわけではない
労働基準監督署の仕事は、あくまでも労働基準関連法令に違反している事業者を指導・監督することです。
逆にいえばどんなに事業者が労働者に対して悪質な行為をしていても、それが明確に労働基準関連法令に違反していない限り、労働基準監督署は何もしてくれません。労働基準関連法令に違反している疑いがあっても、証拠がない場合も同様です。
労働問題に関して、困ったことは労働基準監督署に相談すれば何でも解決してくれる、と思ったら大間違いで、場合によっては肩透かしを喰らうことにもなりかねません。
事業者に対して命令はしてくれない
もし仮に事業者の行為が労働基準関連法令に違反している、となった場合、労働基準監督署は事業者に対して注意・指導・是正勧告を行います。しかし命令はできません。
例えば残業代の未払いという問題が認められたとして、労働基準監督署はこれに関する注意・指導・是正勧告はできるのですが、「労働者に残業代を支払え」と命令することはできないのです。
是正勧告に従わない場合は最悪刑事事件に発展する可能性があり、事業者がこれを嫌だと思えば未払いの残業代を支払う可能性はあります。しかしもし仮に事業者が「何が何でも絶対に支払わない、刑事事件になってもよい」と考えた場合、その後労働基準監督署にできることは限られてきます。
労使間の仲介役はしてくれない
労働基準監督署は労働者からの相談に対して「事業者とはこういう話し合いをするとよい」といったアドバイスはしてくれることはありますが、実際に労働者と使用者の間に立って話し合いの仲立ちをするようなことはありません。
民事問題には不介入
労働基準監督署は労働関係法令に違反しているケースを扱うわけですが、これはあくまでも刑事的な意味合いにおいて、です。つまり、あくまでも逮捕や告発、送検といった刑事手続きを視野に入れた動きとなります。
未払いの給与や残業代の請求、慰謝料の請求といった民事的なことに関しては対応してくれません。
これら民事的な手続きが必要な場合は、別途弁護士を依頼する必要があります。
労働問題で悩んだらまずは労働基準監督署に相談を
以上、労働基準監督署の活用方法をテーマに、労働基準監督署の役割や相談(通報)できること・できないこと、相談(通報)する時の流れやメリット・デメリット、相談(通報)が会社にバレるリスクなどについて紹介しました。
労働基準監督署は、労働問題で悩んでいる人にとってはとても頼りになる存在です。基本的には労働問題であれば何を相談してもよいですし、お金もかかりません。
しかし何でもかんでも解決してくれるわけではありません。労働基準監督署が動けるのは、あくまでも労働基準関連法令に関することだけです。会社とのトラブルを何でも解決してくれる、といった過度な期待は禁物です。
とはいえアドバイスをしてくれたり、別の窓口を紹介してくれたりもするので、労働問題で悩んでいる人はまず相談してみることをおすすめします。くれぐれも1人で悩みを抱え込むことのないようにしてくださいね。