会社を退職すると、一定の条件の下で国から失業手当を受け取ることができます。
この失業手当は「会社都合退職」の場合はすぐに支給されるものの、「自己都合退職」の場合は支給までに2か月以上の「給付制限期間」を経ないと支給されません。
しかし退職理由の如何を問わず、「今すぐに失業手当を支給して欲しい!」という人は多いはず。
ということで今回は、自己都合退職者がすぐに失業者手当を受け取るための要件や、必要なことを紹介します。
実は自己都合退職でも、すぐに失業手当を受け取れる可能性はあります。退職後すぐに失業手当を受け取りたい“自己都合退職者”は要チェックです!
自己都合退職でもすぐに失業手当を受け取る方法
それではさっそく、自己都合退職者でも退職後すぐに失業手当を受け取る方法を紹介しましょう。
結論から先に書くと、自己都合退職でも失業手当をすぐに受け取るためには「ハローワークから『特定受給資格者』か『特定理由離職者』に認定される」必要があります。
以下に詳しく説明しましょう。
「特定受給資格者」「特定理由離職者」とは何か
失業保険の制度上、離職者は「一般離職者」「特定受給資格者」「特定理由離職者」の3つに分類されます。
この3つをわかりやすく説明すると、以下のようになります。
- 一般離職者:自己都合退職者
- 特定受給資格者:会社都合退職者、および自己都合退職者のうち「特定の理由」に該当する者
- 特定理由離職者:一般離職者(自己都合退職者)のうち、離職理由が「特定の理由」に該当する者
通常、離職者は「一般離職者」か「特定受給資格者」のどちらかに分かれます。
しかし一般離職者に分類されるはずの自己都合退職者の中には、その離職の理由によっては特定受給資格者や特定理由離職者に分類される余地があります。
そして特定受給資格者・特定理由離職者に分類されると、失業手当がすぐに支給されます。
つまり自己都合退職をしたにも関わらず、すぐに失業手当が欲しい人は、この「特定受給資格者・特定理由離職者に分類されることを目指す」必要があるわけです。
一般離職者と特定受給資格者・特定理由離職者の失業手当の違い
一般離職者と特定受給資格者・特定理由離職者の失業手当の違いは、以下の通りです。
一般離職者(自己都合退職者) | 特定受給資格者(会社都合退職者)・特定理由離職者 | |
---|---|---|
待機期間 | 7日 | |
給付制限期間 | 2ヵ月 | なし |
給付日数 | 90~150日 | 90~330日 |
一般離職者も特定受給資格者・特定理由離職者も、ハローワークで失業手当を申し込むと「7日間の待機期間」があります。
この後、特定受給資格者と特定理由退職者はすぐに失業手当が支給されるのですが、一般離職者は2ヵ月間の「給付制限期間」を経ないと失業手当が支給されません。
また給付日数も、特定受給資格者と特定理由退職者は最大で330日にもおよぶ場合がある(45歳以上60歳未満で被保険者期間が20年以上の場合)のに対し、一般離職者は最長でも150日です。
つまり「45歳以上60歳未満で被保険者期間が20年以上」の離職者の場合、一般離職者に分類されるか、特定受給資格者・特定理由離職者に分類されるかで、給付日数が倍以上変わってしまいます。
とはいえ、この分類は自分で決められるものではなく、ハローワークが決めるもの。
以下に特定受給資格者と特定理由退職者の範囲を紹介しますので、あなたの退職理由がここに含まれると解釈する余地があるかどうか、考えてみましょう。
特定受給資格者の範囲
前述のように、特定受給資格者とは「会社都合退職者、および自己都合退職者のうち『特定の理由』に該当する者」です。
ハローワークが定める特定受給資格者の範囲は、以下のようになっています。
Ⅰ.倒産等により離職した者
- ①会社の倒産(破産・民事再生・会社更生などの倒産手続きの申立てや手形の停止)による離職
- ②大量リストラによる離職
- ③会社の廃止・事業停止・解散による離職
- ④事業所の移転に伴う通勤困難による離職
Ⅱ.解雇等により離職した者
- 会社による解雇(「自己の責めに帰すべき重大な理由」による解雇は除く)による離職
- 労働契約の締結時に明示された労働条件が事実と著しく異なっていたことによる離職
- 2ヵ月以上3分の1以上、または離職の直前6ヵ月の間のうち3月の賃金(退職手当を除く)の不払いがあったことによる離職
- 労働者の予見できない事由で15%以上賃金がカットされたことによる離職
- 離職の直前6ヵ月のうち3月連続して45時間、1月で100時間または2~6月平均で月80時間を超える残業があったため、行政機関から危険を指摘されたにも関わらず、会社が必要な措置を講じなかったことによる離職
- 会社が職種転換・配置転換の際に必要な配慮をしてくれなかったことによる離職
- 期間の定めのある労働契約が更新され、雇用時点から継続して3年以上雇用されている場合、かつ契約更新を希望していたにも関わらず、契約更新がされなかったことによる離職
- 期間の定めのある労働契約の締結に際し、契約更新が明示された場合において、契約更新されなかった(1つ前の項目に該当する場合を除く)ことによる離職
- いわゆる「ハラスメント」があったことによる離職
- 会社から直接・間接に退職を迫られた(早期退職優遇制度に応募した場合は該当しない)ことによる離職
- 会社のせいでの休業が3ヵ月以上になったことによる離職
- 会社の業務が法令に違反したことによる離職
少し難しいので簡単に説明すると、まず会社の倒産や解雇に遭った人は、基本的に特定受給資格者になります。これらはわかりやすい「会社都合退職者」で、失業手当がすぐに支給されます。
そしてこの他に、特定受給資格者の中には「やむを得ない理由で離職してしまった人」も含まれています。
比較的わかりやすく典型的なケースが、以下のようなものです。
- 大量リストラによる離職(Ⅰの②)
- 事業所の移転に伴う通勤困難による離職(Ⅰの④)
- 労働契約の締結時に明示された労働条件が事実と著しく異なっていたことによる離職(Ⅱの②)
- 賃金不払いによる離職(Ⅱの④)
- 長時間労働による離職(Ⅱの⑤)
- ハラスメントによる離職(Ⅱの⑨)
労働契約の際に提示された給料や休日などの条件と、実際が異なっていれば「話が違う」と退職することが考えられますが、この場合で自己都合退職にされてしまってはたまったものではありません。
またパワハラやセクハラが原因で逃げるように退職をした場合も、「社員が勝手に退職した」と自己都合退職にされてしまうのも、おかしな話。
これらに該当する人が「自己都合退職者のうち『特定の理由』に該当する者」になります。
このように退職に至った直接的な原因が事業主の側にある自己都合退職は、ハローワークでの手続き時に特定受給資格者に認定され、失業手当がすぐに支給される場合があります。
特定理由離職者の範囲
前述のように、特定理由離職者とは「一般離職者(自己都合退職者)のうち、離職理由が『特定の理由』に該当する者」です。
ハローワークが定める特定理由離職者の範囲は、以下のようになっています。
Ⅰ.期間の定めのある労働契約期間が満了し、かつ、更新を希望したにも関わらず更新されずに離職した者(2.の7番目、8番目に該当する場合を除く)(契約条項に「契約を更新する場合がある」と明記されているなど、更新の明示はあるが確約まではない場合がこの基準に該当)
Ⅱ.以下の正当な理由のある自己退職による離職
- ①体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退による離職
- ②妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険の受給期間延長措置を受けた
- ③父もしくは母の死亡、疾病、負傷、扶養、または常時看護の必要な親族の疾病、負傷のための離職(家庭の事情の急変)
- ④配偶者や扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となり離職
- ⑤次の理由により通勤が不可能・困難になって離職
- ⅰ)結婚による住所変更
- ⅱ)育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用または親族等への保護の依頼
- ⅲ)事業所の通勤困難な地への移転
- ⅳ)自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされた
- ⅴ)鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
- ⅵ)事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
- ⅶ)配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避
その他「特定受給資格者の範囲」のⅡの⑩(事業者から直接もしくは間接に退職するように勧奨を受けたことにより離職した者、ただし従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合はこれに該当しない)に該当しない人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者等
特定理由離職者とは、簡単にいえば「特定受給資格者のように会社の一方的な都合で解雇された(あるいは離職に追い込まれた)わけではないものの、離職者を保護してあげる必要があるような理由で退職した人」ということになります。
「Ⅰ」は、例えば契約条項に「契約を更新する場合がある」とされている契約社員が、契約期間満了時に契約の更新を希望しているのに更新されず、離職に至った場合などが該当します。
契約更新を期待していたのに、更新されずに離職を余儀なくされてしまった場合は、自己都合退職であっても会社都合退職と同様に扱って迅速に失業手当を給付してあげよう、というわけです。
「Ⅱ」は、いずれも「働き続けたかったのにも関わらず働けなくなった」というケースです。
例えば③は、父や母の病気の看病など、やむを得ない家庭の事情の急変、④は仕事の都合による単身赴任の継続が困難になったこと、⑤のⅰは結婚によって住む場所が変わって通勤が困難になったこと、などを指します。
こういったケースも、労働者の自由意思による自己都合退職と同じ扱いにするのはかわいそうなのだ、ということになります。
いずれにしても、上記の要件に該当する場合は自己都合退職でも特定理由離職者となって、失業手当がすぐに受給できる可能性があります。
特定受給資格者・特定理由離職者に認定されるためには
自己都合退職者が特定受給資格者や特定理由離職者として認められるかどうかは、あくまでもハローワークの判断次第です。
ここからは、特定受給資格者・特定理由退職者に認定されるためにはどうしたらよいかを考えてみます。
客観的な証拠を集める
特定受給資格者・特定理由退職者に認定されるためには、それぞれの理由に該当することを示す客観的な証拠、つまり誰から見てもその理由が明らかにわかる証拠をハローワークに提出する必要があります。
そしてこの証拠の例は、他ならぬハローワークが示してくれています。
例えば特定受給資格者のⅠの④「事業所の移転に伴う通勤困難による離職」に該当することを示す証拠は「事業所移転の通知、事業所の移転先が分かる資料および離職者の通勤経路にかかる時刻表」となっています。
また、Ⅱの②「労働契約の締結時に明示された労働条件が事実と著しく異なっていたことによる離職」なら「採用条件および労働条件がわかる労働契約書や就業規則など」となっていますし、Ⅱの⑤「長時間労働による離職」なら「タイムカード、賃金台帳、給与明細書など」といった具合です。
こういった収集が必要な証拠の中には、在職中でないと入手が困難なものもあります。退職した後に「タイムカードのコピーをください」といっても断られるはずです。
そのため、会社に追い込まれてやむを得ず退職するような場合は、在職中からメモに記録するなど計画的に証拠を収集しておくことをおすすめします。
【裏技】最も簡単に特定受給資格者になる方法
これは裏技的な手法になるのですが、自己都合退職にも関わらず簡単に特定受給資格者として認定されやすく、会社都合退職同様に失業手当がすぐにもらえる可能性の高い方法があります。
それは、退職予定の半年前からわざと残業時間を増やすことです。
なぜなら離職前の半年以内に「1ヵ月で100時間」「連続する2ヵ月に平均80時間」「連続する3ヵ月に平均45時間」を超える残業をしていた場合、ハローワークでは特定受給資格者に認定されるケースが多いからです。
これは上記の「特定受給資格者の要件」の中のⅡの⑤に類似します。
ここでは「行政機関から危険を指摘されたにも関わらず…」という文言がありますが、実際は長時間残業の実態が確認できるだけで特定受給資格者として認定されるケースが多いようです。
残業時間の多さが理由で会社を辞めたいと考えている人は、自身の残業時間が上記の基準を超えているかどうかを確認してみましょう。
超えている場合は自己都合退職でもすぐに失業手当がもらえる可能性が高いので、在職中にきちんとその証拠を収集しておくべきです。
上記の基準を超えていない場合でも、退職後に失業手当をすぐにもらいたければ、いっそのこと残業時間を増やして上記の基準を超えてから退職するとよいでしょう。
特定受給資格者・特定理由退職者に該当するかどうか調べてみよう
以上、自己都合退職者がすぐに失業手当を受給する方法として「特定受給資格者・特定理由離職者に認定されること」を紹介した上で、これらの要件や認定されるために必要なことなどを紹介しました。
原則として雇用保険制度は離職者の生活を守り、速やかな転職を応援するという趣旨で作られています。そのため、事業主の不当な行為によって退職に追い込まれた離職者は保護してもらえる可能性が高いです。
自己都合退職にも関わらず退職後すぐに失業手当をもらいたい場合、自分の退職に至った経緯が特定受給資格者・特定理由離職者に該当する余地がないかを考えてみてください。
わからない場合はハローワークに相談すれば教えてくれます。
現在退職を考えていて、退職後すぐに失業手当が欲しい場合、「残業時間を増やす」など特定受給資格者・特定理由退職者として扱われるような退職の仕方を考えてみましょう。