近年、転職市場において「退職代行業者」という新しい業態が注目を集めています。
退職代行業者は、退職を希望する人に代わって退職届を始めとする様々な退職関連の手続きを文字通り代行してくれる、という業者です。
そして退職代行業者は、運営元によって大きく3つに大別されますが、退職代行業者に依頼する際は、それぞれの特徴をよく把握した上で依頼することが大切です。
ということで今回は、退職代行の3つの業者それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
退職代行業者を使った退職を考えている人は、ぜひ参考にしてくださいね。
退職代行業者とは一体何か?
まず最初に、退職代行業者とは一体どんな業者なのか、その概要について紹介します。
退職代行業者の業務内容
冒頭に軽く触れたように、退職代行業者とは退職を希望する人に代わって退職の手続きを代行してくれる業者のことです。
サービス内容は業者によって多少異なりますが、主に以下のようなことを代行してくれます。
- 会社への退職希望の意思の伝達
- 退職関連の手続き
- 残った有給休暇の取得の交渉
- 未払い賃金や退職金の支給に関する交渉や請求
- 会社からの貸与品の返却や、会社に置いてある私物の整理や引き取り
なぜ退職代行業者を利用?そのメリットとは
会社を退職する際に退職代行業者を利用することは、必ずしも一般的ではないものの、利用者は着実に増えているようです。
これは会社を辞めたいと考えている人にとって利用するメリットが大きいからといえます。
退職代行業者を利用した退職のメリットをまとめてみると、
- 上司や会社に自分で「退職したい」と言う必要がない
- 上司や会社との面倒なやり取りをする必要がない
- 退職するまでに時間がかからない
といった点が挙げられます。順番に詳しく見ていきましょう。
上司や会社に自分で「退職したい」と言う必要がない
会社を退職したいと考えている人にとって、直属の上司に「退職させて欲しい」と伝えるのは精神的に大きなプレッシャー。
その結果、本当は退職したくてたまらないのにズルズルと勤務を続けてしまったり、その結果心身を病んでしまう、といったこともよくあるようです。
しかし退職代行業者に依頼すると、「退職したい」という意思は退職代行業者が上司や会社へ伝えてくれるため、これらのプレッシャーから一切解放されます。
上司や会社との面倒なやり取りをする必要がない
一般的に上司や会社に退職の意思を伝えると、退職へ向けた様々な手続きが必要です。
具体的には正式な退職届の提出や必要書類の受け取り、有給休暇が残っている場合はその消化に関する交渉、未払いの残業代の請求や立て替えていた交通費などの経費の清算などがありますが、基本的に退職代行業者はこれらの手続きもすべて行ってくれます。
退職するまでに時間がかからない
会社を退職しようとすると、上司や会社から様々な引き止めに遭ったり、最悪の場合は「退職は認められない」と意味不明な宣言をされることすらあります。
気の弱い人はこういった上司や会社の圧力に屈して、退職を断念してしまうこともあると思いますが、そもそも期間の定めのない雇用契約については、労働者には民放627条1項の定めによって退職の自由が認められています。
良し悪しはともかくとして、「退職します」という意思表示をして2週間が経過すれば、自動的に会社を退職できてしまうのです。
民法672条1項:当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
とはいえ実際に自分で退職を申し出ると、退職自体は認められても「後任が見つかるまで3ヶ月ほど退職を待って欲しい」「せめてあと半年は続けてくれ」などと条件をつけられることがあります。こうなると今すぐに退職したいと思っても、なかなか思うようにいきません。
しかし退職代行業者を使うと、退職の意思の伝達や諸々の手続きを速やかに進めてくれるため、2週間でほぼ確実に会社を退職することができます。
退職代行業者の利用にはデメリットもある
今すぐに会社を辞めたい、という人にとってメリットの大きい退職代行業者ですが、その一方でデメリットもあります。
- コストがかかる
- 上司や同僚との人間関係が悪くなる可能性がある
- 同業他社への転職がしにくくなる可能性がある
- ボーナスが支給されない可能性がある
詳しく見ていきましょう。
コストがかかる
退職代行業者の利用には、料金がかかります。
料金の相場は退職代行業者の種類によって変わりますが、これについては次章で詳しく紹介します。
上司や同僚との人間関係が悪くなる可能性がある
会社の退職は、本来であれば自ら上司に申し出た上で了承を得て、残務処理や引き継ぎなどをきちんと済ませた上で、きれいな形で会社を去るのが理想的です。
退職代行業者を利用した退職は、若い世代の間では少しずつ浸透してはいますが、まだまだ一般的な存在・サービスとはいえません。
そのため、人によっては「非常識だ」と考える人もいるでしょうし、何の挨拶もなしに退職をした場合は、上司や同僚との人間関係が決定的に悪くなる可能性もあります。
同業他社への転職がしにくくなる可能性がある
退職代行業者を利用した退職は場合によって禍根を残しますが、業界が狭いとその噂が簡単に他社に広まってしまいます。
これが狭い業界の中で転職を考えている場合には、大ダメージとなる可能性があります。
ボーナスが支給されない可能性がある
退職代行業者を利用した退職が広まる中で、一部の企業ではそのような退職者に対してはボーナスを支給しない、という対策をとるところもあるようです。
そもそも企業側には、毎月1回期日を決めて賃金を支払う義務はあるものの、ボーナスを支払う義務はありません。
通常、退職日よりも前にボーナス支給日がある場合は、退職予定であってもボーナスは支給されることが多いのですが、退職代行業者を利用した退職の場合は支給されないこともあります。
退職代行の「3つの業者」のメリットとデメリット
退職代行業者の概要とメリット・デメリットがわかったところで、ここからはいよいよ退職代行の「3つの業者」と、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
退職代行業者には3種類ある
実は退職代行業者は、そのサービスの運営元によって大きく以下の3種類があります。
- 弁護士
- 労働組合
- 普通の民間業者
この3種類、退職代行業者ということは共通しているのですが、実は色々と違いがあります。
具体的に見てみましょう。
弁護士が運営する退職代行業者
元々退職代行は、以前から弁護士が業務として行っています。
ただしこれは未払い賃金の請求などが主で、今のように退職の意思伝達から会社に置いてきた私物の処理までを行うようなサービスではありませんでした。
しかし近年では普通の民間業者などが退職代行業務に進出してきたため、サービス内容はこれらの業者に勝るとも劣らなくなっています。
むしろ「法律の専門家」というアドバンテージがある分、最も信頼できる退職代行業者といっても過言ではありません。
弁護士が運営する退職代行業者のメリット
弁護士が運営する退職代行業者のメリットは、以下の通りです。
- 未払い賃金の請求代行ができる
- 有給休暇の消化申請代行ができる
- ハラスメントがあった場合は慰謝料請求もできる
- 裁判に発展しても対応してもらえる
前章で退職代行業者のメリットとして「未払い賃金の請求や有給休暇の消化などの面倒な手続きを代行してくれる」という点を挙げましたが、実はこれを法律上まったく問題なく行うことができるのは弁護士のみです。
というのも、「報酬を得る目的で」「依頼を受けて」「請求や申請、交渉といった『法律事務』を行う」ことができるのは、弁護士だけだからです。
これは弁護士法72条に定められています。
弁護士法72条:弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない
弁護士でないものがこれらの業務を行うことは「非弁行為」といって違法。
法律に基づいて堂々と未払い賃金の請求代行や有給休暇の消化申請代行をできるのが、弁護士の大きなメリットです。
また退職の原因にパワハラやセクハラがあった場合は、その慰謝料請求にも対応できる上、退職代行の過程で生じた様々な法律的なトラブルも含め、仮に裁判に発展したとしても弁護士ですからすべてワンストップで対応可能です。
弁護士が運営する退職代行業者のデメリット
弁護士が運営する退職代行業者のデメリットは、以下の通りです。
- 費用が高い
ほぼ唯一のデメリットは、他の業者と比較して費用が高いこと。
一般的に弁護士による退職代行の料金相場は、5万円前後となっています。
高度な法律の専門家である弁護士に動いてもらう以上、致し方ないですが、未払い賃金や慰謝料請求がなく単純に退職するだけ、という人にとっては割高に感じるかもしれません。
労働組合が運営する退職代行業者
労働組合とは、労働者が団結して労働条件などの改善を図る目的で作られる団体のことです。
労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)は日本国憲法で保障されており、労働組合は労働組合法を根拠にして作られています。
労働組合が運営する退職代行業者のメリット
労働組合が運営する退職代行業者のメリットは、以下の通りです。
- 未払い賃金の請求代行ができる
- 有給休暇の消化申請代行ができる
- 弁護士が運営する退職代行業者に比べてコストが安い
未払い賃金の請求代行や有給休暇の消化申請代行といった法律事務を行うことができるのは弁護士だけです。
しかし労働組合は、労働組合法5条の要件を満たしていれば団体交渉権が保障されているため、これらの請求や交渉は団体交渉の一種として認められる、という考え方があります。
労働組合法5条:労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。(以下略)
そのため、現状では多くの労働組合が団体交渉として退職代行に伴う請求・交渉を行っています。
一方で「退職代行のみを目的として設立された労働組合は労働組合の定義に当てはまらない」「依頼者の退職の意思を会社に伝達すること自体が既に法律事務」という考え方もあり、労働組合によるこれらの行為は非弁行為であり違法、という声もあります。
適法なのか違法なのかは、意見が分かれますが、退職代行事業のみを目的として作られている労働組合の場合はグレーといえそうです。
ちなみに労働組合が運営する場合の料金相場は3万円前後で、弁護士の料金相場に比べると割安な設定となっています。
労働組合が運営する退職代行業者のデメリット
労働組合が運営する退職代行業者のデメリットは、以下の通りです。
- ハラスメントがあった場合の慰謝料請求ができない
- 裁判に発展した場合は対応してもらえない
ハラスメントがあった場合の慰謝料請求を労働問題の団体交渉と捉えるのは無理があり、これは完全に法律事務にあたります。つまり弁護士ではない労働組合が対応することはできません。
また、裁判に発展した場合も対応不可能です。
会社側が徹底的に争うなど裁判に発展する可能性がある場合の退職代行は、弁護士に依頼すべき。
労働組合が運営する退職代行業者は、未払い賃金や慰謝料請求がなく単純に退職するだけ、という人であれば利用をおすすめできるでしょう。
普通の民間企業が運営する退職代行業者
それまでは弁護士が限定的に手掛けていた退職代行というジャンルに普通の民間企業が進出してきたのは、2000年代後半に入ってからです。
退職代行が世の中に広まった背景には、これら普通の民間企業が様々なサービスを編み出して発展させたことがあります。
普通の民間企業が運営する退職代行業者のメリット
普通の民間企業が運営する退職代行業者の、唯一にして最大のメリットは「コストが安い」ということです。
退職代行の平均相場は弁護士が5万円、労働組合が3万円でしたが、普通の民間企業が運営する場合は1万円代後半から2万円前後です。
「とりあえず退職だけできればいい」という人にとっては、安いコストで気軽に利用できるのはメリットといえるのですが、この後取り上げる通り、色々と問題が起こるかもしれません。
普通の民間企業が運営する退職代行業者のデメリット
普通の民間企業が運営する退職代行業者のデメリットは、以下の通りです。
- 未払い賃金の請求代行ができない
- 有給休暇の消化申請代行ができない
- ハラスメントがあった場合の慰謝料請求ができない
- 裁判に発展した場合は対応してもらえない
普通の民間企業に法律事務はできません。また労働組合が運営する退職代行業者のように、他の法律を根拠とすることもできません。
そして前述のように、依頼者の退職の意思を会社に伝達すること自体も法律事務なので違法、という考え方もあり、この考えに基づくと、そもそも普通の民間企業が運営する退職代行業者を経由した退職の意思表示自体が無効となります。
そのため、会社が強硬姿勢に出た場合は「退職したつもりでも退職できていない」ということになる可能性も。
よく「弁護士からのアドバイスをもらって運営している」ことを売りにしている業者もありますが、弁護士からのアドバイスをもらっていようがいまいが、法的にみて法律事務ができないことには変わりません。
退職できなかった、退職代行を使ったら会社と揉めた、といったことになっても、普通の民間企業が運営する退職代行業者は一切責任は取ってくれませんので、利用にはかなりの覚悟が必要でしょう。
退職代行の3業者、違いとメリット・デメリット:まとめ
以上、退職代行業者の概要と、退職代行業務を行っている3つの業者とそれぞれのメリット・デメリットについて紹介しました。
退職代行業者を利用した退職は確かに便利ですが、円満退職にはやや遠い印象です。
自力では速やかな退職が難しい場合に利用するのはよいですが、後々の人間関係などが気になる場合は利用を慎重に考えるべきでしょう。
その結果、退職代行を利用するのであれば最もおすすめなのは弁護士の運営業者。多少料金は高くなりますが、法律に基づいてすべての業務を速やかに行ってくれます。
また、慰謝料交渉や裁判に発展するリスクがなければ、労働組合に依頼するのも悪くありません。
民間企業は気軽に頼める反面、できることが少ない上に法律的な根拠がない状況。おすすめはできませんが、料金の安さとリスクを比較した上で、どうしても料金の安さを優先したい時は覚悟を決めて選びましょう。
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