未払い残業代を請求したい!その計算方法と手続きの流れを徹底解説

未払い残業代 請求

毎日長時間会社のために頑張って働いているのにその分の残業代を支払ってもらっていない、でも会社にいえば立場が悪くなってしまったり、最悪の場合クビになったりするかもしれない····そんなことをおそれて残業代の請求を躊躇されてしまう方も多いのではないでしょうか。

しかし、残業代はあなたが一生懸命働いた対価なので、それを請求するのは正当な権利の行使。泣き寝入りする必要はありません。とはいっても、そもそも自分の残業代がどのくらいの額になるのか、どうやって請求したらいいのかわからないという方もいるでしょう。

そこで、今回は残業代の計算方法と残業代請求手続きの流れについて説明していきます。

 

残業代とは

残業代を計算するにあたって、まず残業代とはどのようなものをいうのか確認しておきましょう。

「残業」というのは法律用語ではなく、法律上は「時間外労働」といいます。労働基準法では、会社が従業員に労働をさせてもいい時間は原則として1日8時間、週40時間までと定められているので、これを超えて労働した時間が「時間外労働」となります。そして、この時間外労働について割増賃金を支払われることになっています。

時間外労働だけではなく、休日や深夜に労働をした場合も割増賃金が支払われますので、休日や深夜にも労働をしているという方はその割増賃金もしっかりと支払われているかチェックしてみてください。

ちなみに、会社によっては、1日7時間、週35時間というように法定労働時間よりも短い勤務時間が定められていることがあります。これを「所定労働時間」といいます。この場合、1日1時間ずつ、合計で週5時間余分に働いたとしても、法定労働時間を超えて労働しているわけではないので、割増賃金は支払われません。

このように法律で定められた時間の範囲内での残業を「法内残業」と呼びます。法内残業については、法律上会社が割増賃金を支払う義務はありませんが、会社の就業規則などで法内残業にも割増賃金を支払うという規定がある場合には、割増賃金を支払ってもらうことができます。
 

残業代の計算方法

では、具体的に残業代の計算方法をみていきましょう。

残業代の計算方法は、次の計算式で求めることができます。
 
①1時間あたりの基礎賃金(時給)× ②割増率 × ③残業時間
 
といっても、具体的にどのような数値を当てはめればいいのか分かりづらいですよね。以下で順に解説してみましょう。
 

1時間あたりの基礎賃金の求め方

時給制であれば、1時間あたりの基礎賃金は時給額となるのでわかりやすいです。しかし、会社で勤務されている方は月給制となっていることが多いと思います。では、月給制の場合は1時間あたりの基礎賃金をどのように算定すればいいのでしょうか。

月給制の場合における1時間あたりの基礎賃金は、
 
1ヶ月の基礎賃金 ÷ 1ヶ月の労働時間数
 
という計算式で求めることができます。

1ヶ月の基礎賃金

1ヶ月の基礎賃金というと月給額を想像する方も多いと思いますが、月給としてもらっているお給料額すべてが基礎賃金に含まれるわけではないことに注意が必要です。

労働基準法では、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・退職金・賞与などについては基礎賃金には含まないこととされています。なぜなら、これらの手当や賃金は、労働の内容とは直接関係がない個人的な事情に基づいて支払われるものだからです。

例えば、家族手当がもらえるかどうかは仕事内容にかかわらず家族がいるかどうかという個人的な事情によってくることになり、労働とは直接関係がないので基礎賃金には含まれません。

ただし、ただ単に手当の名前だけで判断するわけではなく、本来の手当としての実態が伴っていない場合は基礎賃金に含まれることもあります。

例えば、通勤手当という名目で支払われていたとしても、通勤距離や通勤にかかる実費にかかわらず一律1万円を従業員全員に支給しているというような場合は、通勤手当には当たりません。つまり、会社が意図的に基礎賃金を低くおさえて割増賃金として支払う額を減らすということができないようになっているわけです。

1ヶ月の労働時間数

1ヶ月の労働時間数については、1ヶ月の所定労働時間で計算します。月給制の場合、月によって所定労働時間数はそれぞれ異なってくるので、1年間の所定労働時間から1ヶ月あたりの平均所定労働時間を求めます。

例えば、所定労働時間が1日8時間、1年間の所定労働日数が240日の場合、1年間の所定労働時間は8時間×240日=1920時間となります。そして、ここから1ヶ月あたりの平均所定労働時間を計算すると、1920時間÷12ヶ月=160時間となります。


 

割増率の求め方

労働基準法上、割増賃金の割増率は、次のように定められています。

  • 時間外労働 25%
  • 休日労働  35%
  • 深夜労働  25%

時間外労働かつ深夜労働、休日労働かつ深夜労働というように、2種類の労働時間が重なる場合には、それぞれの割増率を合計することになります。

例えば、時間外労働かつ深夜労働であれば、25%+25%=50%の割増率、休日労働かつ深夜労働であれば、35%+25%=60%の割増率となります。

なお、大企業において時間外労働が月60時間を超えた場合には、その超えた分の割増率は50%となります。現在、中小企業においてはこの決まりはまだ適用されていませんが、2023年4月以降は50%の割増率が適用されます。
 

時間外労働

前述の通り、時間外労働の割増賃金が支払われるのは、1日8時間、週40時間を超えた労働時間についてのみとなります。そのため、1日8時間、週40時間に満たない法内残業については割増賃金が支払われません。つまり、法内残業については1時間あたりの基礎賃金だけもらうことができます。

休日労働

一般的な会社では、土日祝日は休日とされていることが多いと思います。しかし、これは会社のルールにすぎず、労働基準法上は、これらのすべてが休日にあたるわけではないので注意が必要です。

労働基準法では、原則として週1日だけが休日とされています。これを法定休日といいます。そして、休日労働として割増賃金が支払われるのは、法定休日だけです。そのため、土曜日と日曜日の2日間出勤をしたとしても、法定休日でない日については休日労働としての割増賃金は支払われません。

なお、本来の出勤日に法定労働時間を超えて残業するというのが時間外労働なので、休日は本来出勤日ではない以上、休日労働は時間外労働にはあたりません。

深夜労働

深夜労働とは、22時から翌5時までの労働をいいます。例えば、会社の就業時間が9時から17時までとされている場合に、就業時間に加えて17時から23時まで勤務したとすると、22時から23時までの1時間については時間外労働かつ深夜労働ということになるので、50%の割増率となります。


 

どの時間が残業時間にあたる?

残業というと定時以降に仕事をした時間というイメージがあると思いますが、実はあなたが労働時間だと思っていない時間も労働時間としてカウントされて残業になる可能性があります。

そもそも労働時間とは、従業員が使用者である会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

例えば、始業前に朝礼に参加することが義務付けられていたり、休憩中に電話番を命じられて電話がかかってきたら応対することが求められていたりというような場合は、会社の指揮命令下にあるといえるので、労働時間にあたります。

本来は就業時間外のはずなのに会社から何かするように指示された場合には、それが労働時間に当たる可能性があるので、残業代の請求にあたっては知らず知らずのうちに残業をさせられていないかよく思い返してみましょう。
 

残業代請求の流れ

残業代請求はおおまかにいうと ①話し合いで交渉 ②労働審判 ③労働訴訟 という流れになります。すべて自分だけで行うこともできますが、労働審判や労働訴訟は専門家である弁護士に依頼した方がスムーズに進みますし、交渉についても弁護士を代理人とした方がうまく話がまとまる可能性が高いです。

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1
話し合いで交渉

残業代を計算して未払いの残業代があった場合、まずは会社と話し合いで交渉をするところから始まります。話し合いといっても、ただ口頭で「残業代を支払ってください」と伝えるのではなく、書面でいくらの残業代が未払いになっているのか、その計算根拠はどうなっているのか示した方が会社も検討しやすくなるので、弁護士に依頼した場合はまず内容証明郵便を送って会社の反応をうかがうことになります。

というのも、会社としても訴訟で時間と費用がかかるくらいなら話し合いで残業代を支払って解決してしまいたいと考えてあっさりと残業代を支払ってくれる場合があるからです。たとえあなたの主張する残業代全額は認められなくても、大部分については支払うと申し出てくれる場合もあります。

また、会社を退職せずに今後も働き続けたい場合、いきなり訴訟を起こして対立を激化させてしまうのではなく、話し合いで穏便に解決する方が望ましいでしょう。

この話し合いでの交渉で重要になってくるのが証拠です。会社としても、何の証拠もないのにいきなり残業代を請求されたとなると、争う姿勢で構えてしまいます。

よく問題になるのは、労働時間が何時間になるのかという部分です。会社は労働者側が提示してきた労働時間が多すぎるといってそれを否定する傾向にあるので、会社が言い逃れできないように自分が働いた時間がわかる資料を集めておく必要があります。例えば、タイムカードや出退勤記録、パソコンのログや残業した時間のメモなどを準備しておくとよいでしょう。

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2
労働審判

会社が話し合いに応じてくれない、もしくは話し合いでの交渉が決裂してしまったという場合には「労働審判」を起こすことになります。

労働審判とは、労働者と会社との間で起きた労働問題を労働審判官1名と労働審判員2名が審理し、迅速な解決を図ることを目的とする裁判所の手続きをいいます。労働審判官は裁判官が担当し、労働審判員は経営者や人事担当経験者など会社側の代表と、労働組合の役員など労働者側の代表のそれぞれ1名ずつが担当します。

労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終結しなければならないため、通常の訴訟と比べて迅速に解決することができます。ただ、その反面訴訟のようにじっくりと時間をかけて審理を進めてくれるわけではないため、第1回期日で裁判官を納得させられるだけの主張と証拠を提出しておく必要があります。

また、労働審判では、原則として調停が行われます。そして、この調停では会社と労働者が交互にどこまでなら譲歩できるかということについて裁判官と労働審判員に言い分を伝えることになります。双方の主張がうまく合致しない場合には、裁判官と労働審判員はお互いの言い分をふまえて妥当な解決案を提示してくれることもあります。それでもまとまらない場合は、最終的に労働審判が言い渡されることになります。

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3
労働訴訟

労働審判が出ても納得できない場合は、異議を申し立てることができ、異議を出すと通常訴訟に移行することになります。通常訴訟に移行した場合は、労働審判とは異なり結論が出るまで1年近くかかることも珍しくありません。

通常訴訟では労働審判と同じようにそれぞれ主張立証をすることになりますが、労働審判よりも時間をかけて裁判官が双方の言い分を聞いていきます。労働審判の調停のように、通常訴訟でも裁判官が双方の言い分を聞いて妥当な解決策を提示して和解を勧めてくる傾向にあります。

裁判官の提示する和解に応じない場合は、証人尋問をして裁判官が判決を出すことになります。それでも納得できなければ、さらに高等裁判所での審理を求めることになります。
 

残業代請求はいつまできる?(残業代請求の時効)

残業代の請求には2年の時効があり、残念ながら2年よりも前の残業代請求権は時効によって消滅してしまいます。この2年という期間は、給料日の翌日からカウントします。

ただし、会社が「時効だからその残業代請求権は消滅している」と主張しなかった場合には時効の効果は発生しません。つまり、会社が何も言わなければ2年よりも前の残業代であっても認められる可能性があります。そのため、もし2年よりも前から未払い残業代が発生しているという場合には、まずはとりあえず請求してみて会社の出方をうかがうというのも一つの手です。
 

「残業代の計算方法と残業代請求手続きの流れ」まとめ

ここまでみてきたように、もし自分で計算してみて未払い残業代があるという場合、時効によって残業代請求権が消滅してしまう前に手を打っておきましょう。

自分で計算してみたけど合っているか分からない、自分で会社と交渉するのは難しそうだなという方は、労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。